第7号(2009/1/1)●4-6面
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資本主義に代わる協同組合型社会構想こそ希望

世界金融恐慌に立ち向かう
労働者運動の進路・変革へのオルタナティヴ
本山 美彦 大阪産業大学経済学部教授、京都大学名誉教授
「株が上った、下った」、こんな社会はやめよう。
労働者が生産・消費・経営全般に参加する、
こういう社会をつくりましょう。
武  建一 全日本建設運輸連帯労組関西地区生コン支部執行委員長、
■  ■■ 中小企業組合総合研究所代表
物、金が全ての価値観、大量生産、大量消費の
アメリカ的生活スタイルを見直す時代、
競争でなく「共生・協同」の運動を。
司会 増田 幸伸 近畿生コン関連協同組合連合会専務理事



 米国発世界金融恐慌の危機は、米自動車産業「ビッグ3」の破綻など実体経済の危機に及び、今、この時代を開くこれからの労働者運動はどうあるべきか。その進路、変革へのオルタナティヴが求められている。この問題について、日本で最先頭を行く理論家の本山美彦氏と実践家である武建一氏に、縦横に語っていただいた。なお、この対談は、08年11月初旬、関西において開かれた「時局講演会(対談)」の一部を編集したものです。その全体は近くパンフになる予定です。(編集部)
世界金融恐慌の構造と新しい流れ

――まず本山先生に、金融恐慌・危機についての解説をいただきたいと思います。
本山 株が史上最大の下げを記録し、乱高下を繰り返している。素人はこれだけ株が暴落すると損してまで売りません。ところが株を扱っている玄人が、どうして大損をしてまで株を売ろうとしているのか。
 プロの金融ビジネスは、「ファンド」からお金を預かり、いろんな物件に投資する。これがサブプライムローンの問題で、(投資したお金が)焦げ付いて、お金が返ってこない。しかし、ファンドは大体3ヶ月が期限ですから、「金を返せ」となる。となると、ファンドからお金を預かっていた、主として投資銀行が資金繰りに困る。まさに現ナマに困る。マルクスが「恐慌とは、現金を求めて右往左往すること」と言ったが、そのとおりのことに。そうすると、すぐ換金できるのは株しかない。その株も現金が欲しいから、優良株から売っていく。ところが、地獄の怖さというのは、今度は株が下がることによって儲ける「空売り」業者が出てくる。これによって株の暴落が加速化されていくのが真相です。

投資銀行がなくなり
商業銀行へ変身

 そこで、ポイントは三つです。一つは、投資銀行がなくなったということ。私たち日本人が普通思い浮かべるのは、預金を集めてその預金を企業に融資していく銀行=「商業銀行」(預金銀行)です。商業銀行には大きな規制があり、取引のあらゆるものを金融当局に明らかにしなければならない。そして、預金ではなく自己資本の最大12・5倍しか貸し出すことはできない。これが「バーゼル規定」。日本の銀行はこの規制をはめられて、商業銀行の足腰を強くする方向に向かったが、アメリカはさっさと「そんな規制の強いのはだめだ」と言って、別の方向に向かった。
 こうして大きくなってきた銀行が「投資銀行」。投資銀行は、預金を預かりません。少人数(50人以下)の大金持ちから一口何億円という形で資金を集めたのがファンドで、そこからお金を得て、それをまた投機的な形で融資していくのが投資銀行です。これは、バーゼル規定からは自由です。これが「金融の自由化」です。
 そこに「レバレッジ」とかがでてくるのですね。それがわかりにくい。
本山 「レバレッジ」というのは、規制がないので自己資金の30〜40倍の借金をして大勝負をしていく。そして、「何をしてきたのか」は当局に一切報告しなくてもいい。その代わり、ひっくり返ったときには自己責任で「当局からの公的な援助はいりません」という約束で。ところが、実際にひっくり返ったら「投資銀行をやめ、商業銀行に変ります、だから公的資金の援助を」を求める。ゴールドマン・サックス、メリルリンチ、など軒並み商業銀行にくら替えしました。
 わかりやすく言えば、「投資銀行よさようなら。商業銀行よもう一度こんにちは」と言う時代に、今、きたのです。

金融における
「大量破壊兵器」

 アメリカの金融の恐さは、「倒産すれば儲かる」という連中が出てきた。これが「CDS」です。
 そのCDSというのは?
本山 CDSとは、クレジット・デフォルト・スワップといい、これは「この企業は倒産すると思いますか、しないと思いますか」という賭けの契約。これが「CDS」。つまり、A企業がB企業からお金を借り、BはAからお金を返してもらう権利がある。しかし、Aが倒産するかも知れない。そこで、保険会社Cが「もしAが倒産した場合には、Aに変わってBに全額支払い、その保証をします。その代わりこの保証を買って下さい」。すると、BはいざというときのためにCからその保証を買う。ここまでは普通の保険です。
 問題がややこしくなったのは、ここから。アメリカは戦後70年間、不動産価格の下落がなかった。だから、倒産はないであろうと考えた。よって、保証してもらったBが保証を他人であるDに転売する。そうすると、話はがらっと変わってくる。
 「CDS」がDに転売されたら、DにとってはAが倒産しない限り、自分の持っているCDSが一文の価値もない。倒産したらその保証証券にはお金が払われる。そうすると、黙ってことの成り行きに委ねるDはいない。あらゆる手段を使ってAを倒産させるように踏み込んでいく。これがアメリカの「修羅場」です。だから、CDSは「金融における大量破壊兵器」と言われている。発行額は60兆ドルを超すと。最大のCDSの売り手はAIGです。

シャドウバンキング・システムと
金融権力

 リーマンブラザーズはつぶしても、AIGが救済されたのは、その辺の所にあるわけですね。
本山 そうです。AIGは世界の支払保証をしており、倒産したら世界大恐慌が絶対に来ます。だから、アメリカは真っ先にAIGの救済・国有化をしたのです。CDSは、倒産して清算しなければ支払額が確定しない。要するに、どれだけの被害があるのか誰も分からない。つまり、これは「シャドウバンキング・システム」と申しまして、闇でうごめく銀行。それで、表の数値は誰にもわからないのです。
 投資銀行の大親分はゴールドマン・サックス。金融自由化をやった1999年、金融近代化法案をつくったのはロバート・ルービン財務長官で、ゴールドマン・サックス会長から転身した人間。現在の財務長官・ポールソンもゴールドマン・サックス会長からの転身者。そういう一つの権力構造がある。私はこれを「金融権力」と呼んでいます。こういう金融権力構造がアメリカに定着し、世界の連中がアメリカに追随した結果、ひっくり返った。これが現状です。
 この11月15日には、G8と中国・インド・ブラジルなどの新興国のG20がありますね。ここで、問題は解決しないでしょう。どうご覧になりますか。
本山 アメリカに対する信頼が絶望的に無くなっているから、特にフランス、イギリスが厳しく対応し、新興国ともどもつるしあげるでしょう。日本はどうか。世界がみんなアメリカから逃げようとしているのに、麻生さんは「アメリカばんざい」で尻尾を振っている。投資銀行がなくなった。これは世界史的にみれば、起こるべくして起こったので、今、金融恐慌で非常に苦しいけれども、この危機を乗り切ると少しはましな経済システムに戻る可能性が強い、というように私は思います。ただし、日本は置いてきぼりをくうであろう、ということは予測できますね。
―――経済的な危機と同時に、アメリカでは政治的・軍事的な危機も進行しており、また世界のこれに対する抵抗・対抗運動も起こっていますね。武委員長、その辺のところ、どうでしょうか。

弱肉強食の
市場原理の破産

 今の金融危機というのは一口で言えば、弱肉強食の市場原理の破産と思います。元々は、経済や政治は、民衆の暮らしを豊かにするためのシステムでなければいけない。ところが、人間の暮らしの土台である経済というものが金儲けのためになり、一部の大金持ちが市場を食い荒らすことを自由にさせていた。そのツケが今きているということが、今の先生のお話だったと思いますね。
 ところが、資本主義体制そのものは、基本的には市場原理主義ですよね。いくらか規制はしながらも、基本的には競争社会。なぜかと言うと、競争によって、一部特権階級が「わが世の春」を謳歌できるのが資本主義のシステムですから。これは経済のシステムも、政治のシステムもそうです。軍事的にも、イラク・アフガン侵略戦争でその世界最大の軍事力を持ってしても勝てず破綻しています。ですから、アメリカは、ブッシュからオバマに政権が変わったとしても、この政治や軍事の基礎にある基本的な資本主義そのものの仕組み、一部特権階級のための経済・社会・政治システム、これを基本的に変えないという点では、誰が大統領になったとしても不変だと思いますね。

資本主義に代わる
変革への挑戦

 経済が不安定になると、上部構造である政治が非常に混乱し、混迷を深めるのが一つの法則だと思います。バクチ経済を推し進めてきた「市場に人間を合わせていく」という考え方。市場原理主義を追及したのはフリードマンでした。
 こういう論理が取り入れられて、一番失敗した例はチリ。チリでは、軍事独裁政権であった1970年代、強引に市場原理主義を取り入れたのですが、一時期は成功したかに見えて、危機に直面した。貧乏人が増え、一部特権階級だけが好き勝手なことをする状態になった。そして、フリードマンのシカゴ学派はチリから追い出されたのです。その後、アメリカ的なやり方はもうだめだとなって、独裁政権を打ち倒して、左翼政権が誕生しました。アメリカの「のど元」でまともな政治が出てきた。
 べネズエラもそうです。ベネズエラでは、アメリカみたいなやり方をして民衆を苦しめ、一部特権階級だけが謳歌するようなことではだめだと訴え、支持を集めた。元軍人のチャベスは、軍隊を使って各地に協同組合をつくり、「21世紀社会主義をめざすボリバール主義革命」を打ち出し、資本主義に代わる協同組合型社会構想を進めています。チャベスは、民権を徹底的に追及し、外国資本の資源略奪を認めない、一部特権階級によって民衆を苦しめる政治のあり方・経済のあり方を徹底的に改める。そして、中南米でアメリカに対抗する新しい流れをつくろうとしています。「南の銀行」という、アメリカ中心型の金融システムに対抗するものができつつあります。
 1944年にアメリカのドルが基軸通貨として認められ、金1オンス=35ドルのレートを決めた。しかし、1971年にニクソン・ショックが起き、その体制は崩壊した。それ以来、アメリカの市場原理主義は、事実上ずっと歴史的には崩壊過程をたどってきたのではないか。そして、それがある種爆発したのが現状ではないか、と考えます。
本山 そのとおりですね。

日本の運動の低迷は
労組の体たらくが原因

 新しい流れは、中南米だけでなく、ヨーロッパでは、年金充実を求め、賃上げを求めてストライキがなされ、「大企業中心の経済政策をやめよ」という声が非常に高まっている。韓国でも、米国産牛肉輸入に対する怒りが爆発している。そういう形で、世界で社会運動が大きく発展していますね。そして、政治的にも、ドイツ左翼党の躍進や、フランスの反資本主義左翼新党の09年1月結成、ネパールの共産主義者の躍進など、ソ連邦崩壊以降はじめての左翼再生の流れも眼に見えるようになってきました。
 残念ながら、わが国においては、トラック業者や漁民や農民、派遣など若い非正規労働者が立ち上がっていますが、政治を変革する運動が非常に弱い。その原因は、やはり労働組合運動の体たらくにある。大企業の労働組合が今、労働運動の主導権を握っていますが、彼らは大企業の利益のために労務担当みたいなことをやる。そして、中小企業や下請の労働者をいじめ、派遣労働者をどんどんつくって、今の二極構造をつくっている。
 ところが、一方では、犠牲を受ける人たちは、そういった運動があろうがなかろうが体で感じます。ですから、参議院選挙において与野党逆転の現象が生まれている。この先にある総選挙についても、政権交代を求める世論が高まりつつある。その意味で、犠牲を受ける人たちの怒りが高まっており、今、政治の変革も可能な時代になったのではないか、と思っています。

日本のアメリカ追随の原因はどこに

―――日本の問題になったところで、世界を一極支配してきたアメリカの時代が終わり、世界は多極化の時代に入ったのだと思います。
 この衰退しつつある超大国アメリカに日本はべったりくっついて離れない。この日本の対米追随・従属性の根にある構造とは何なのですか。
本山 その前に、武委員長のお話に関連して貧困の話を一言。
 世界で一番貧困度数が高いのはアメリカで、日本は先進30ヶ国の中でビリから3番目です。マイケル・ムーア監督がブログで発表したのですが、アメリカは、トップ400人の資産がその他の1億5千万人の資産より多い。特定のほんの一握りの少数に莫大な富が集中している。
 小泉内閣は、「この社会が素晴らしいんだ」と、アメリカの手法を真似て、その結果が、今の貧困と格差です。

追随の大本に
日米安保条約がある

 司会者の設問にもどると、二つの問題点がある。
 一つは、アメリカの言いなりになったのはなぜか。アメリカに「NO」と言えなくさせたのが日米安保条約です。安保条約は軍事条約だけでなく、第2条には「日米経済の一体化」があります。1960年に安保改定があり、これに対する60年安保闘争があった。この筋書きを書き、日本側と交渉に当たったのが、アメリカ通商代表部の前身である貿易部の初代長官のクリスチャン・ハーターでした。通商代表部は、大統領の直轄機関で、「年次改革要望書」を出して、ああしろこうしろと言います。この意味で、一番大本の安保条約を廃棄しない限り、アメリカのごり押しは合法です。これが日米安保条約の恐さです。
 二つ目。今、「大統領直轄」と言いましたが、このアメリカ的システムをやれと言ってきた。小泉内閣のときに、初めてやったのが経済財政諮問会議で、竹中平蔵さんたちが主導して全ての案をつくり、これを各省庁に「お前はこれをやれ」と振り向け、「だめだ」といったら「抵抗勢力だ」と強引に押し切っていった。
 今、一番大事なことは、別にナショナリズム、右翼的なことでなくて、アメリカと日本は違うんだということです。これだけゼロ金利が続いているのに日本人は株を買わずに預金をし、預金が100兆円も増えた。株の60%は外国人によって買われている。アメリカと日本は文化的背景も人間的感情も違うのに、アメリカの言いなりになって特定の人間が政治・経済を支配できる非常に怖い社会体制に踏み込もうとしてきた。ここを強調したい。そのアメリカで、今回の大統領選でそれがひっくり返った。だから、次は日本も同じようにそれがひっくり返る可能性があると信じております。
―――今の貧困問題で、マイケル・ムーア監督が公的資金注入に対して、一部の特権的富裕層のバクチのツケを何故国民にまわすのか、「こんな法案は通すな」とブログで発信しました。同時にアメリカでは労働組合も、「金持ちの尻拭いをなぜわれわれがしなければならないのか」と闘いに立ち上がっています。連帯労組は侵略戦争に反対してストライキをし、沖縄戦の歴史教科書の問題や辺野古の米軍基地新設問題に反対する取り組みなど幅広い活動をなさっている。アメリカと日本との関係についてどう思われますか。

 根っこにある日米安保の問題は、そのとおりです。最近、日米安保条約破棄が運動の後景に退いていることに問題を感じてきました。それから、今の先生のお話と重なるのですが、あるテレビ番組で、「日本の終身雇用制度と年功序列型賃金、企業別労働組合の三つが日本経済を強くした。そして、アメリカに次ぐ経済大国になった。この制度もアメリカによって潰された」と言われていました。つまり、日本の政治家どもがアメリカの言いなりになって全てが進んでいる。日本は「アメリカの一つの州」だと言われるほど。ですから、経済的な追随・従属性だけではなく、政治・文化・軍事、食文化も含めてあらゆる点でその追随性、従属性が現れています。
 結局は、アメリカ的な物とか金だけが全ての価値観、大量生産・大量消費のアメリカ的生活スタイルで世の中の構造をつくってきた政治家、財界、こういうところの責任が大きい。そこをもう一度見直していく、そういう時代ではないかと思いますね。
本山 全く同感で、そういうことですね。
 労働運動に引き付けて言えば、先ほどの「年次改革要望書」の問題で、一番有名なのが郵政民営化。郵政民営化というのは、日本の国民の巨大な預金をアメリカ資本にとって都合のいいように利用したいというのが本質であって、その前の国鉄の分割・民営化問題も同じ構造。結局は、なけなしの預金も全て食い散らしてしまおうという貪欲なアメリカ財界、それにのっかかっている日本の財界の意思によって、アメリカの要望を忠実に実行しているということじゃないかと。いま、日本の財界の意思といいましたが、日本の多国籍的形式をとっている大銀行・大企業、つまり大資本家たちの金儲けの利害と一致してやっていることで、ここが大事なところです。われわれが闘う相手が誰か、敵を鮮明にするという意味で。

日本の政権が
変わらなければならない

 また、政・財・官のトライアングル、これは今の政権であれば全く変えられない。それが利権構造になっているわけですから。そういう意味では、私は民主党を中心とした野党政権にならなければ、利権構造は変化しないだろうと思います。しかし、民主党になったからといって、アメリカと一緒ですよ。完全には変化しません。ですが、利権構造を変え、本当の意味で高級官僚の特権をなくすとかの新しいシステムをつくるには政権が変わらなければいけないのではないか、と私は思います。
それから、労働組合の本来の目的は労働者の経済的・社会的地位向上です。しかし、平和で民主主義がなければ労働組合の運動はあり得ません。それを一番破壊するのは戦争。戦争のときに一番犠牲になるのは一般国民です。基本的人権の侵害の最たるものが戦争である。だから反戦運動は労働組合にとって非常に大事です。ですから、1965年にはアメリカの北ベトナム攻撃に対して、われわれは2時間のストライキをやり、最近のイラク戦争に対してもストライキをやり、今年もストライキをやりました。

大失業時代の到来、
過去の歴史的教訓に学ぶべき

 本来、労働組合だけでなく、中小企業も含めて戦争の動きに敏感に対応することが大事です。過去の歴史では、民主主義の名によって独裁政治を生み、悲惨な戦争をやりました。わが国の平和憲法の定めでは、軍隊が持てず、交戦権が否認されており、これがあるから60年以上戦争しなくてよかった。ところが今、憲法が拡大解釈されて、自衛隊を海外派兵している。現政権は憲法も変えようとしている。このときにわれわれは歴史の教訓を学ばなければいけない。
 今の時代は、混迷し、非常に厳しい経済状況です。中小企業にとっては貸し渋りや貸しはがしなどで倒産が続出し、トヨタ、キヤノンなど大企業が派遣切りを大規模に行っており、大量失業者が出る時代です。1930年代、巷に失業者があふれ出して、そして、何かしら将来に対する不安が非常に強いという世論の雰囲気の中で、ナチス・ヒットラーが誕生して、あっと言う間に政権を彼らは握った。このヒットラーを誕生させたのも、国民です。今後の日本も、かつてナチス政権を誕生させたドイツと同じようになりかねない。そうした歴史の教訓をしっかり受け止めて、アメリカの先制攻撃や日米安保条約下での日本の対米追随に対して安保破棄を掲げ、労働者もしっかり闘う必要があります。

資本主義の危機に対抗するわれわれの進路
変革へのオルタナティブ

―――さて、そこで、現在の危機に対する対抗、オルタナティブについてお聞きしたいと思います。
 今、これまでの国家や私企業主導に対して第3セクターということで、協同組合やNPO(非営利団体)があります。これらの経済規模は非常に大きくて、ヨーロッパを中心として、発展途上国でも協同組合の力は非常に大きい。世界では7億数千万人が協同組合に関与しています。
 そういう流れの中で、本山先生はその著書(『金融権力』)で、グラミン銀行、NPO銀行、「南の銀行」、イスラム金融の考え方とかを紹介し、その中でもESOP(イーソップ)という従業員株主制度というものがあり、「これは一つの社会革命だ」と書いておられます。その辺の代替案についてお話をおききしたいのですが。
本山 1917年にロシア革命が、1919年に米騒動が起こり、日本の権力者たちは社会主義に恐れおののいて「勉強しろ」となって、東大と京大に経済学部がつくられた。その京大から河上肇が出て、大正12(1923)年に「社会主義とは何ぞや」と問い、彼は「家族だ」と言った。つまり、家庭の中では差別がない。子どもや母親や夫の幸せのために乏しい富の分配をやっている。彼はこれが社会主義だと言った。企業も、企業内での労働の配分や原料の節約など様々なことについて、みんなで仲良く合理的に編成していくもので、資本主義は企業内部に社会主義を生み出していると。これを社会全体に、企業同士あるいは住民同士で一つの家族的なものがつくれないだろうか考えた。
 労働運動がそういう必要な経済学をつくっていくことを、私たちは忘れてはいけない。今、シカゴ学派の新古典派の連中が、「人の首を切るのが企業にとっていいんだ」と言うのは、労働組合運動が沈滞して、舐められているから。
 少なくとも賃金は低ければいいものではない。二つの理由から。一つは、マイケル・ポランニーが言っているのですが、技術とは本や言葉では伝えることができず、人の背中を見て伝わっていく。だから、(人間の)集団が企業の中にあって初めて技術は伝承されていく。これを「暗黙の知」と言う。
 もう一つは、W・A・ルイスが、「経済成長の結果、賃金が上がるんじゃない。逆だ」と言った。理由は、人権に目覚め、ブルジョア市民革命を経験し、自己主張の強い、「怖い」労働者を集めた企業は高い賃金を出さねばならないし、社会福祉もきちんとしなければならない。その高負担に耐えるためには、安物ではなく非常に付加価値の高いものをつくっていく。だからこそ、相次ぐ技術革新が出てくる。これが結果的には経済成長を促すと。

労働組合が生産・消費・経営全般に
参加するシステムを

 これらのことを考えて、今、われわれは何をなすべきか。武委員長がおっしゃったように労働組合を再生させねばならないというのが、大前提です。その上で、これだけの資本の暴虐、荒れ狂う資本に歯止めをかけるためには、まず金融を取り締まること。
 大事なことは、お金は雇用を増やすために使うべきで、400人の大金持ちをさらに大金持ちにするために使われるべきではない。では雇用を増やすためにお金を使うとすれば、地域的にお金を循環させていくシステムが必要で、労働金庫的なものを地域につくって、そこでみんなのお金をプールしていく。
 「株が上がった、下がった」「儲かった、損した」、こんな社会をやめましょう。株はその事業に参加する会員証。株を持つことは、その会社の生産活動、消費活動、世間的な活動、その全てに自分たちが惚れて事業に参加するということ。だから絶対に売ってはいけない。
 そこで、社員・関係者に株を持ってもらい、その受け皿は労働組合がやり、労働組合が株式を集め、企業側は賃金以外に現物の株を労働組合に渡す。その大株主組織が、同時に労働組合として経営参加する。そして、従業員配置や生産のやり方など経営者は労働組合と相談しながらやっていく。こういう社会を早くつくろうではないか、と私は思います。私はこれをESOPと名付けています。
 それはいわゆる従業員株主会とどうちがうのですか。
本山 このESOP制度は日本の従業員株主会と違って、株主組織に発言力がある。それから、地域の金融機関が自社株を買えるようにお金を融資する。株は定年まで持つ。また、配当金は全部積み立てて、退職後の年金のフォローをしていく。これによって労使一体型ができる。この制度が日本でも緊急に必要です。特に、中小企業の場合は、これをやらなければいけない。日本の企業の96%は中小企業です。さきほど、司会の増田さんが言われたように、協同組合的なものを作っていく。こういう流れを新しい社会運動として、われわれは展開すべきです。
―――まさに、武委員長の指導する関西地区生コン支部が中小零細企業を労働組合の闘争力をもって事業協同組合へ組織して、大企業に抗していく運動ですね。
 本当に、心強い思いで先生の構想を聞いておりました。本山先生、先ほどの「賃金が高いところが経済成長する」ということですが。生コン業界における協同組合運動に引き戻してみると非常に分かりやすい。例えば生コンの値段で一番低いのは大分。今1立米の標準価格が4、300円だそうです。それから、名古屋では20数年間、協同組合が非常に安定していたが、新たにできたアウト企業(協同組合組外の企業)に対抗して生コンの値段をどんどん下げてきた。今、1立米6、800円くらい。労働者(生コン運転手)の賃金の主要な部分は運賃で、名古屋や東京では運賃は1立米当たり1、500〜1、700円と非常に低い。ですから、労働者の賃金も低く抑えられている。しかも、東京では日々雇用(いわゆる非正規の日雇労働者)が圧倒的に多い。そうすると、中小の経営者も、労働者も、出入り業者も、みんなが貧乏している。一番儲かっているのはセメントメーカー。セメントメーカーはアウトでもイン(協同組合内の企業)でも関係なく銭儲けのためにセメントを売っている。それによってみんなが被害を被っている。
 関西はどうか。賃金・労働条件は他地域と比較して結構高い。そして、生コン売り価格も安定している。そして、ゼネコンやセメントメーカーとの取引を対等にする仕組みができ上がっており、新技術開発や品質保証システムの充実、消費者が信頼できる製品づくり、需要創出などに向けて取り組んでいる。
 つまり、労働組合がしっかりすると経営者も問題意識を持たざるを得ない。そして、お互いが競争して、タコが自分の足を食って生きていくというやり方でなく、大企業の支配システムに対してまとまって対抗しようという方向に進んでいる。
 それから、この状況をみると、これまでの景気循環型の経済危機ではなく、資本主義の仕組みそのものと政策の機能不全ではないか。それで先生がおっしゃったような投機筋の規制もよく出来ない。資本主義の仕組みそのものが崩壊状態にきている。ですから今の事態は、相当深刻な危機だという認識を持つ必要がある。

「共生・協同」の
協同組合運動が必要

 そういう状況の中で、今、われわれが進めようとしているのは何か。この時代に対抗する思想・理念は、競争でなく、「共生・協同」です。
 お互いが助けあうということ。長い人類の歴史で互いが助け合って生きた歴史の方が長い。ブレトン・ウッズ体制は1944年にでき、44ヶ国が集まって、アメリカを中心にしたシステムをつくった。それが今、崩壊状態に進んでいる。人類の長い歴史の中から見るとこういった危機は、チャンスではないか。
 今のように家族や地域の共同体が破壊された社会を見直すようになったのはチャンスです。人間らしい生き方を追求し、人道主義の精神に立って、われわれが運動するのが「共生と協同」。具体的には、今われわれが追及している、生コン製造・生コン輸送・バラセメント輸送・コンクリート圧送を始めとする協同組合運動です。つまり、中小企業のために、労働者の解放、人類の未来のために、日本の経済を民主化しまともにするために、協同組合運動が必要です。
本山 まさに、武委員長がやってこられた協同組合方式しかもう残ってはいないだろうとおもいますね。
 しかし、先生。労働組合によっては、「中小企業は中小企業に任せておけばいい、自分たちは賃上げだけをやればいい」と言うんです。こういう労働組合は、木を見て、森を見ない。産業という森全体を見ながら木=個社を見なければならない。つまり、大局観を持って個別を見ていくという、この視点がない。産業をどうするのかという視点がないから、労働組合がその政策運動に積極的に関与することを否定してしまう。

企業別組合の
一番の悪弊(あくへい)

 日本の労働組合は企業別組合で、企業間競争に労働組合が埋没するとんでもない日本の労働組合の一番の悪弊(あくへい)を引き継いでいる。そういう労働組合を乗り越えて、われわれは、労働者という弱い立場の人間は群れなければ、労働力商品の対等な取引ができない。中小零細経営者も団結することによって、大企業との対等取引に接近する。弱いもの同士の共通項がたくさんある。もっと言えば、パイを大きくする点では労使が一緒になれる。そういう方向でわれわれはこれからも運動していく。労働者はいうまでもなく、中小企業からは信頼され、求められ、世の中の役に立つ組合。大企業や権力からは恐れられる組合。そういう労働組合と運動でなければならないと思います。
―――最後にお聞きしたいのですが、世界の経済が崩壊すると、日本経済も崩壊するのか、これから何がどうなっていくのだろうか。その点はどうでしょうか。
本山 あえて端的に申しまして、世界的な広がりというのは逆流している。これからは「地域」がキーワードになってくると思う。地域で生きのびる。まさに武委員長のいう共生ですね。世界ではなく、地域で。
 生コン業界に即して言えば、ゼネコンという存在も本当は許してはいけない。その地域の仕事はその地域で受けるのであって、入札競争で東京の大ゼネコンが落札して、あとは地域の中小の下請に丸投げする。それで、ピンハネして。これはやめなければいけません。地域の公共事業は地域の企業にやってもらう。そういう意味では、今後どうなるのかと言われれば、私は地域的な社会の復活となるだろうと思います。
 また、私はあえて、今こそ戦後直後の日本再建の歴史的経験にもう一度目を向けて、なぜ日本はここで生きのびてきたのかと考える。
 私は誤解を恐れずあえて申します。日本的なものの再発見をみなさんにやっていただきたい。少なくとも今は歴史的には苦しいけれども、必ず展望が開ける。そのキーワードは地域性だと思っています。
 今、先生のおっしゃったことに同感です。
―――展望が開けるというお話が出たところで、終わりにします。今後とも共通したテーマで、一緒に手を携えてがんばっていきたいと思います。


本の紹介

本山美彦著
『金融権力―グローバル
経済とリスク・ビジネス』
岩波新書(2008年)
780円+税
武 建一著
『武建一
 労働者の未来を語る』
社会批評社
1800円+税


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