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増田 幸伸(近畿生コン関連協同組合連合会専務理事) |
●2つの流れの行方
イギリスにおける消費者協同組合(以下、生協)と労働者生産協同組合(以下、労協)との路線対立は19世紀末まで続きました。しかし、事業としては卸売協同組合連合会(CWS)を軸とした生協の大発展と、停滞から縮小へと後退し続けた労協との実態を反映し、イギリスの協同組合運動は生協運動が支配的となります。
同時に、1895年に設立された国際協同組合同盟(ICA)の運営もイギリスの生協運動が支配するようになり、1914年段階ではICAは生協の同盟だとみなされがちでした。もっとも、生協の多くは自分たちを社会主義運動の一部と考え、小農民で作る農協や都市中間階級からなる信用協同組合と一致点を見出せなかった点もあります。
生協運動の発展は、自らの運動の再評価と理論的基礎と社会ビジョンを明らかにしていきました。
第1に、従来、リカード(またはマルクス)の労働価値説が当然の前提となっており、それ故、生産物の価値を作り出すのは労働者であるから、労働者への利潤配分や経営参加を主張する者の倫理的優位性は確固としていました。
しかし、1870年代、経済学で限界効用学説が同時期にジェヴォンズ(イギリス)、メンガー(オーストリア)、ワルラス(スイス)によって発表され、アダム・スミスやリカードなどの古典派経済学に対し、近代経済学を創始したといわれています。限界効用とは、さまざまな財(サービスも含む)を消費ないし保有することから得られる効用(満足度)を考え、ある財をもう1単位だけよけいに消費ないし保有することにより可能になる効用の増加を意味します。生産物の価値が、限界効用によって決まるという考え方から、生産のプロセスにおける消費者の優位が生協人に注目されたのです。
第2に、近代社会の基本矛盾は賃労働と資本の敵対にあるとしますが、生協運動の成功は、今や生産過程のあらゆる段階で消費者のコントロールが進み、ついには「消費者としての労働者の解放」が説かれるようになったのです。
第3に、これまで流通は、何も価値を生まない生産の単なる付属物だとみなされてきました。しかし、生産を流通や交換から切り離すことはできず、すべては同一の同じ過程であり、流通業の労働者も、生産物を作る労働者も、同じ労働者であるという認識が広まっていきました。
当時のイギリスの生協人は、「協同組合共和国」について、自らのビジョンを抱いていたのです。
●生協の停滞と再編
第2次世界大戦後、イギリスの生協組合員は300万人から400万人以上となり増加の一途を辿ってきました。しかし、1950年代後半で成長が止まりました。生協の市場占有率は11%ありましたが、競争する商業資本は大規模化しメーカーを支配し始めました。格差が広がります。停滞と再編が始まりました。
生協の小規模な3万の店舗、1千に及ぶ単協が、分散し、非効率的経営を固守し、協同組合中央会やCWSの指導に従わない実態が、また、独占資本の新しい流通モデルとの厳しい競争激化が停滞を余儀なくさせてきました。窮地に追い込まれた生協は、当初は応急的に合併統合を強行し、現在では27までに集約しました。CWSもその生産部門を売却し、生協最大の小売業となりました(コーペラティブグループ=CG)。
巨大なスーパーマーケットやハイパーマーケットに押され、生協の成功モデルが崩壊しかけてきました。しかし、再建努力が実ってきました。
90年代に小売市場の4%のシェアが、08年末現在で、組合員は857万6千人、事業高130億ポンド(2兆円)、イギリス全土で3千店舗、8%のシェアとなっています。生協の小売事業では全生協が統一した仕入れ機関を利用し、店舗業態では従来は障害と見られていた小規模店舗に地域密着型のコンビニエンス・ストアの業態を導入して強力に再生しています。また、大型店舗よりも中規模スーパーに特化しています。
さらに、葬祭、薬局、旅行、自動車販売、法律相談、農場など多面的な展開もしています。その中でも、CWSの子会社である協同組合銀行や保険協同組合は、その倫理政策を通じて急速に成長しています。
協同組合の価値の再発見や地域の民主化に向けた取り組みがどう発展していくのか見届ける必要があります。
ことしの2月、米の検査規格の見直しを求める会が消費者庁長官と消費者委員会委員長宛に、「JAS法『玄米及び精米品質表示基準』についての意見書」を送った。その意見書を筆者もいただいたが、現在の日本の農政が直面している問題を、現場から意見として提出したもので、重要な指摘をしている。しかも、農業者だけではなく消費者にもかかわるなかで、米の検査規格の見直しを大きなうねりにしていくことが大切だと考えている。
日本農業規格(JAS)法に基づく基準によると、主食用の米は「単一銘柄米」とブレンド米(複数原料米)」の2種類がある。ブレンド米の場合、国産品は「国内産」、輸入品は「外国産」と表示しなければいけない。ただ、すべてが国産品だと、ブレンドした内訳の産地や品種、産年などは明記しなくてもよく、「複数原料米・国内産・10割」という簡略表示が許されている。そのため国内産であれば、古米、古古米、ふるい下米、餌米、加工用米、米粉用米、粒が小さく低価格の加工用くず米などを混入しても無表示でよく、違法にはならない。しかも、ふるい下米には米トレーサビリティ法の効力がなく、確認する手段はまったくない。また、輸入された事故米などを、表面につやを出したり、においを消したりする今の精米技術を活用することでブレンド米にすることも可能である。このように現行の「複数原料米」表示は、消費者にとって正しい情報にもとづく選択権の補償が担保される制度になっておらず、逆に不利益をもたらすものとなっている。
これは意見書にはないわたし個人の考えだが、いま消費者には低価格志向が続いている。不況のなかで生活を維持していくために、値段の安さを求める消費者の思いは十分に理解できる。だが、値段の安さだけを追求していくと、問題のある米が市場に広がる可能性がある。すでに農薬やかびに汚染された事故米をほかの米と交ぜ、主食用の「複数原料(ブレンド)米」として売っていた業者が指摘されている。消費者は値段の安さを求めると同時に、米の品質を見極めなくてはいけない。だが、「産地」「品種」「産年」の識別は、専門の検査員でも目視検査では不可能といわれているだけに、一般の消費者に求めることは難しい。とりあえず米を求める時は、米穀店と十分に話し合いをしながら買うようにしてほしい。
意見書ではさらに、「『ふるい下米』の定義と基準設定」について、JAS法を早急に改訂・整備する必要があるとしている。
収穫した米を出荷する際、選別工程で産出される「ふるい下米」は「くず米」とも呼ばれる。(1)農産物検査では「規格外」以下に相当し、(2)古い紙袋に無記名で詰められる場合が多く、(3)農家の庭先からトラックに積まれて移動するとトレース不可能となる。(4)それにもかかわらず現行のJAS法では「複数原料米・国内産・10割」とJAS表示が可能であり、一般米と見分けがつかない。(5)現に一部の流通業者が「低価格米を求める声に応える」という名目で、安いふるい下米を一般米に混ぜて主食用米として販売し、一部の業者に不当な利益をもたらし、農家の首をしめている。このため、ブレンド米に「複数原料米・国内産・10割」の簡略表示を止め、流通するすべての精米に「産地・産年・品種」の三点セット表示を実施する。また、平時は主食用米は整粒のみを使用し、ふるい下米の混米を禁止することなどを意見書では要求している。ただ、主食用米の不足などで、やむを得ずふるい下米を混米する場合は、「ふるい下米使用」とその割合表示を義務付けるように求めている。
また「整粒」と「ふるい下米」に関する定義と、基準となる網目幅を定めることを求めている。これは現行制度の不備に原因がある。政府が「全国水稲収穫量」の推計に使う1・7ミリの篩い(ふるい)は実態とかけ離れているため、大きな誤差が生じているからだ。政府は2008年産の全国水稲収穫量を881万5千トンと発表している。これは1・7ミリのふるい網を使った推計である。しかし、1・7ミリの細かい網を使用している農家は、全国でわずか0・6%に過ぎない。95・2%は1・8〜2・0ミリのふるい網を使用している。米穀データバンク社によるとその誤差は65万トンになるが、このうち30〜40万トンが主食用に流通しているという。
水稲収穫量は生産目標数量の配分や交付金額の算定など、米政策の基礎になる。正確な推計にはJAS法に整粒とふるい下米に関する定義と、新たな基準を設けることが必要だとしている。
この意見書が指摘している見直しが実現されるように、わたしたちもぜひ働きかけたい。
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